![]() 疾患について<シェーグレン病>
【概要】 近年、シェーグレン症候群の呼称はシェーグレン病(Sjögren disease: 以下SjD)に変更され、その変更の経緯は学術論文として出版された。SjDは女性優位に発症し、外分泌障害による乾燥症状を呈する自己免疫疾患であり、抗SS-A/Ro抗体などの自己抗体産生や多彩な腺外症状を特徴とする。2014年のシェーグレン症候群分科会の調査では患者数は68,483人と推計されており、関節リウマチや橋本病など他の自己免疫疾患と合併しやすい。また、近年、小児患者の報告が増えており、2016年の厚労省研究班の調査報告では、小児の膠原病の中で4番目に患者数が多かった。発症には遺伝的素因とウイルス感染などの環境因子が加わって獲得免疫系が活性化され腺症状や腺外症状が顕在化する。また、自然免疫系もtoll様受容体を介したI型インターフェロンの活性化などがSjD発症に関与している。獲得免疫では、自己抗原刺激を提示されたTリンパ球による外分泌腺破壊や異所性二次濾胞内外におけるB細胞系の活性化と自己抗体産生が重要である。診断は厚労省基準に従って行い2項目以上を必要とするが、腺外症状は多臓器に亘るため重症度指標を用いた評価が必要となる。治療は補充療法が主体であるが、ムスカリン受容体アゴニストやムチン分泌を促進する点眼剤も使用される。SjD患者に多い倦怠感には漢方薬が有用な場合がある。肺や腎臓などの重要臓器障害がある場合は、グルココルチコイドなどの免疫抑制剤使用が考慮される。2025年現在複数の分子標的薬の治験が行われており、その結果が待たれている。近年では、診断の遅れや社会的視点から患者白書の重要性が増しており、抗セントロメア抗体陽性SjDの診療、小児期発症SjD発見啓発活動の必要性など新規治療以外にも複数のアンメット・ニーズの存在が知られている。
【疾患名の変遷】 欧米では「症候群」という言葉が疾患名より軽い、あるいはただの症候群であって病気ではない、といった声があった。この「症候群」への違和感については、米国の膠原病内科教授とシェーグレン協会代表者による書簡が米国リウマチ学会の公式雑誌に2021年に発表された。その後、米国と欧州の医療者と患者による疾患名についての投票が行われ「シェーグレン病」が選ばれ、2023年に国際ローマコンセンサスが採択された。この内容が2025年に著明な医学ジャーナルに掲載され、欧米ではシェーグレン病の呼称が公式となった。このことは、米国シェーグレン協会のホームページにもその経緯が詳細に示されている。日本では、昭和50年代には「シェーグレン病」の呼称が用いられていたが、当時の厚生省特定疾患シェーグレン病調査研究班によって1977年に旧診断基準が作成された頃に「シェーグレン症候群」の呼称が定着し長らく使用されてきた。しかし、欧米が「シェーグレン病」の呼称を公式に採用したことを受けて、日本シェーグレン症候群学会でも欧米に足並みを揃える議論を行い、「シェーグレン病」へ変更することが適当であることが採択され、疾患名変更に至った。
【病因・病態】 1.遺伝的素因と環境要因 2.外分泌腺機能障害とその調節 3.自己抗体産生機序 【病因・病態のポイント】
【診断】 1)診断 本邦では1999年の厚生労働省改訂基準が長く用いられている(表1)。1977年の旧診断基準では「原因不明の乾燥症状があり」という文言があったが、1999年診断基準には乾燥自覚症状が含まれない。その上で、1) 生検病理検査、2) 口腔検査、3) 眼科検査、4) 血清検査のうち、2項目が陽性であればSjDと診断する。1)の病理検査では4mm2あたり50個以上のリンパ球浸潤(1フォーカス)の有無を確認する。また良性リンパ性上皮性病変(benign lymphoepithelial lesion; LEL)や異所性二次濾胞形成の有無なども確認する 表1 厚生労働省研究班による1999年改訂診断基準
[ 診断基準] 2)本邦診断基準の問題点 本邦および2016年アメリカリウマチ学会/欧州リウマチ学会基準(表2)両者において共通の問題点として、抗SS-A/Ro抗体が陰性であってもSjDの診断・分類が成り立つ点が挙げられる。 表2 American-European Consensus Groupによる2016年改訂分類基準
OSS: ocular staining score 除外基準:頭頸部の放射線療法の既往、活動性HCV感染症、AIDS、サルコイドーシス、アミロイドーシス、graft versus host disease; GVHD、IgG4関連疾患 すなわち本邦診断基準では、口腔と眼科検査両者陽性、あるいは口唇生検陽性で、口腔・眼科検査のいずれかが陽性であればSjDの診断となる。抗SS-A/Ro抗体陰性SjDは本質的に。抗SS-A/Ro抗体陽性のSjDとは病態が異なる可能性が示唆される。また現在の本邦基準と異なり欧米基準には唾液腺造影、唾液腺シンチグラフィーなどの画像検査が含まれていないことが挙げられる。抗SS-A/Ro抗体陰性SSの中で注目されるのが、限局皮膚型全身性強皮症で高率にみられる抗セントロメア抗体陽性SjDである。国内施設での検討では、一次性SjD患者129例のうち14例(10.85%)が抗セントロメア抗体陽性であり、抗SS-A/Ro抗体との併存は少なく、レイノー現象が多い、血清IgG上昇が少ない特徴がある。抗SS-A/Ro抗体については、Ro抗原にはRo52とRo60のアイソフォームがあり、本邦で多く採用されている化学発光酵素免疫測定法(CLEIA: chemiluminescent enzyme immunoassay)はRo60抗原のみに対する抗体であり、Ro52抗原は同定できない。一方、fluorescence enzyme immunoassay (FEIA法)ではRo60/Ro52抗原ともに同定できるため、CLEIA法で陰性の場合はFEIA法でのRo52抗原同定が有用な場合がある。
【小児期シェーグレン病】 一般にシェーグレン病は小児にはまれと思われている。これは、小児患者は成人と異なり、乾燥症状を訴える事が少ないためである。小児患者では、外分泌腺の障害が軽度なために乾燥症状が出ない場合が多いが、中には年齢が小さいうちから慢性的に唾液や涙液の分泌が低下しているために、それがあたりまえだと思って「症状」として認識していない場合もある。
【自覚症状と疾患活動性の評価】 SjDの症状の主体は乾燥症状であるが、患者白書2020によれば日常生活への影響は84.4%、就業上の影響は59.3%があると回答しており、病気の悪化進行や治らないという懸念を85.6%の患者が示していることが記載されている。このため、このような社会的背景を考慮して自覚症状と臓器障害を評価することが重要である。自覚評価のため欧米由来のEuropean League Against Rheumatism(EULAR)Sjögren’s Syndrome Patient Reported Index(ESSPRI)が利用可能である。最近2週間における「乾燥」、「倦怠感」、「疼痛」の3項目について10段階形式の質問を行い、その平均値をESSPRIとして示す。他方、臓器障害の評価法として、ESSDAI: European League against Rheumatism (EULAR) Sjögren's syndrome disease activity indexがあり、総点数は123点であるが5点以上の中等度疾患活動性が難病申請の基準となっている(詳細は学会ホームページのESSPRI&ESSDAIを参照)。ESSDAIは12項目の臓器障害や血液・免疫異常を含んでおり、各領域ごとの点数に重み付けの数字を掛け合わせて点数を出し、その総計がESSDAIの点数となる。リンパ節腫脹およびリンパ腫については、耳下腺の粘膜関連リンパ組織型節外性濾胞辺縁帯リンパ腫;mucosa associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫の頻度が高く、疑った場合には血液内科への紹介が必要となる。リウマトイド因子陽性、。抗SS-A/Ro抗体陽性、クリオグロブリン陽性、低補体血症、高疾患活動性等がリンパ腫リスクとして抽出されており、留意が必要である。関節症状はSjDの半数程度と最も多い臓器症状であり、関節リウマチの合併と鑑別が必要となる。皮膚症状では冬季にはいわゆる「しもやけ」様の凍瘡様皮疹やレイノー現象がみられ、環状紅斑もSjDに特徴的である。肺病変は無症状で呼吸機能検査が正常であっても高解像度CT(HRCT)で間質性肺病変があれば5点をカウント可能である。腎障害は糸球体腎炎よりも尿中b2ミクログロブリン増加を伴う間質性腎炎が多い。時にミオパチーの合併がみられ、MRI、針筋電図および筋生検いずれかでの客観的な証明が必須となっている。神経病変では感覚神経優位型の多発神経炎が最も多く、いわゆる「手袋靴下型」を示すことが多いが、麻痺を伴うこともある多発単神経炎など血管炎に基づく末梢神経障害も少数みられる。血液障害では好中球・リンパ球・ヘモグロビン・血小板の低下の程度によって0-6点の評価がなされる。生物学的所見では、血清IgG>2000 mg/dLであれば中等度活動性の2点となるが、ここには逆にIgG<500 mg/dLの低ガンマグロブリン血症の出現とクリオグロブリンが含まれていることに留意が必要である。また、SjD自体の臓器障害とは離れるが、橋本病や抗セントロメア抗体陽性時の原発性胆汁性胆管炎の合併には留意する。 【治療】 「シェーグレン症候群診療ガイドライン2025年版」が刊行され、本邦の標準的な治療指針を提供している。 1.腺症状の治療眼乾燥に対しては、眼表面の層別治療(tear film oriented therapy: TFOT)が行われており、ヒアルロン酸点眼液、ムチン分泌促進作用のあるレバミピド点眼液・ジクアホソルナトリウム点眼液の推奨度が「強い」であり、エビデンスの強さはC(弱い)となっている。ジクアホソルナトリウム点眼液は特に角結膜上皮障害が高度の場合、点眼時に刺激、異物感を生じる。また、ジクアホソルナトリウム点眼液とレバミピド点眼液はムチン分泌促進作用により眼脂が増えることがある。レバミピド点眼液は白濁しているため、機械操作や自動車運転には注意が必要である。涙液減少が高度で、点眼などで十分効果を得ない場合は、涙点プラグ挿入術(涙点閉鎖)が考慮され、同じく推奨度は「強い」、エビデンスはC(弱い)となっている。また、ドライアイ保護用ゴーグルも補助的に使用する。口腔乾燥に対しては、塩酸セビメリンや塩酸ピロカルピンの推奨度が「強い」であり、エビデンスの強さはC(弱い)となっているが、嘔気・下痢・発汗・頻尿などの副作用があり少量から開始することが多い。また塩酸セビメリンについては口腔内リンス法も紹介されている。重篤な虚血性心疾患、気管支喘息等があると使用禁忌となるため留意が必要である。また、エビデンスは弱いが麦門冬湯は唾液分泌量を改善させる可能性があり使用される。またエビデンスは非常に弱いものの、口腔保湿剤には唾液分泌量改善効果は無いが、口腔乾燥自覚には有効な可能性があり幾つかの保湿剤を組み合わせると口腔乾燥に有効な場合がある。腺病変に対するグルココルチコイドの全身投与は唾液・涙液分泌量の改善効果は無いことが記載されているが、ミゾリビンは唾液分泌量を改善させる可能性がある(但し、推奨度は「弱い」、エビデンスは(弱い)であり保険適応が無い)。ガイドラインに掲載の無い皮膚乾燥や膣乾燥症も臨床現場では経験し、前者には白色ワセリン・ヘパリン類似物質クリーム投与を行い、後者では産婦人科紹介を行うことがある。時にドライノーズもあり、白色ワセリンや市販のスプレー使用も考慮する。 2.腺外症状の治療 【予後】 一般的には予後良好な疾患であるが高いESSDAIによる疾患活動性、低補体およびクリオグロブリン血症が予後に関係しているという報告がある。また、SjDでは血液腫瘍の発生が一部でみられ、耳下腺のmucosa-associated lymphoid tissue lymphoma: MALTリンパ腫が最も多く、その次にびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫が多いため注意が必要である。 【課題と今後の展望】 病態面では、Tphを介した濾胞外自己抗体産生系の関与や近年注目されている老化関連B細胞の関与、自然免疫系がSjDの発症にどの程度関与しているかなどが課題である。診断面では、現行の診断基準にある唾液腺造影、唾液腺シンチグラフィーの施行率が低い点、眼科検査ではローズベンガルテストの細胞毒性のため特殊フィルターを用いたフルオレセイン染色での代用の普及が課題である。口唇生検は疼痛を伴い施行率が40%程度であり、唾液腺エコーの普及、施行医の養成や唾液腺エコーを盛り込んだ新しい診断・分類基準の策定が望まれる。小児SjDでは、乾燥症状が目立たないため発見の遅れがあり、成人への移行期医療も問題点である。患者の声に関しては、周囲や医療者のシェーグレン病に対する無理解や診断の遅れをどのようにして早めるかという課題が挙がる。病名と診断基準の変更により難病指定やこれから導入される見込みの新規治療の受け易さが変わるのかという影響も大きな課題である。治療面では新規分子標的薬の開発が進む中、どのような患者が良い適応になるか、腺破壊が進行してしまっている患者への再生医療の開発をどのように進めるかという課題がある。 (2026年1月 文責 中村英樹) <IgG4関連疾患> |





